税務調査の傾向と注意点は?
最近の法人税調査では、95%に事前通知があり、うち85%は税理士に通知がありますが、5%は事前通知なしに行われます。特に現金商売の飲食・小売業は、現金実査のため、通知なしで行われますのでびっくりしないようにしてください。この場合、税理士が立ち会っていない調査は原則認められませんので、現金調査だけにして帰ってもらってください。調査日数は、2日間が多く、84%は4日以内に終わります。調査の結果のうち75%に何らかの修正があり、悪質な重課税処分がその内21%であるというのが平均的な税務調査のパターンのようです。(東京税理士会税務調査アンケート)
また、調査修正項目では、費用、売上・収益、利用資産等、その他資産の計上の誤り、という順で多いようです。最近の税務調査の主な留意点を挙げれば以下のようになります。
【1】現金
現金の調査は約9%の確率で実施され、現金の実際有高を実査、帳簿残高と突合します。
この作業で両者が一致しなかった場合、調査官は記帳全体の真実性に疑問を持ちます。さらに金庫の中のハンコ・鍵・プリペイドカード等の使われ方や、所有者等で不正の手がかりを見つけようとします。例えば、ハンコがあれば、調査官はそのままハンコを押して、よく使われて朱肉が残っているものの利用理由を追求してきます。
【2】預金
決算書に計上されていない「隠し口座」等のチェックがされます。税務調査では、事業所や代表者の住所近辺の金融機関に関係口座の内容等を問い合わせ「隠し口座」が無いか確認することがあります。
【3】棚卸商品、仕掛品等
期末近辺で購入した商品等が計上されているかチェックします。特に、製造業やサービス業等で人件費部分の仕掛品計上を忘れがちなので注意しましょう。在庫に関しては、実地棚卸の原票を保管しておきましょう。不良品、長期滞留品などデッドストックの処理もよく問題になります。安易な破棄や処分は避けましょう。廃棄する場合、廃棄現場写真や廃棄業者の廃棄証明書を発行してもらってください。
【4】有形固定資産
期中の資産の増減と減価償却、用途等がチェックされます。購入・売却時の価格や付帯費用が適正処理されているか、除却時は除却の要件を満たしているか等です。減価償却は使用開始が何時か、耐用年数は適切か等、チェックされます。
【5】役員借入金
借入の裏づけをチェックします。借入の原資はきちんと役員の資金から出ているか、売上の計上漏れを借入としていないか、社長個人に財産が不当に移転していないか等が確認されます。
【6】売上
売上の計上漏れが無いかは調査の大きなポイントです。期末の締め後の売上が計上されているか、今期に計上されるべき売上が翌期に繰延べされていないか等、翌期首近辺の売上が徹底的に調査されます。また、「何に基づいて売上が計上されているか」請求書・納品書・受領書・引渡報告書・完了報告書・通知書・営業日報・レジペーパー等、自社の売上計上基準を明確に記載したものを用意しておきましょう。
【7】人件費
支払額が妥当か、架空の人件費は無いか、源泉税の納付書記載総額と一致しているか、非居住者等の源泉徴収が妥当かがチェックされます。また、役員給与の増減もチェックされます。
【8】保険料
養老保険等の一部が資産に計上されているか、保険会社の証明書と合致するか、さらに給与、福利厚生費になるもの等の区分が適正かチェックされます。
【9】交際費
費用の修正項目の中で一番多いのが交際費です。会議費等他科目に混入している交際費は無いか、通常要する額を超えていないか等、必ずチェックされます。
※「1人あたり5,000円」の条件を満たしているか?
平成18年税制改正で、「1人当たり5,000円以下の飲食費は、税務上の交際費に該当しない」ということが明確になり、チェックが厳しくなりました。「誰」と「何人で」等が重要になります。この規定の適用条件は、あくまで社外の人との交際費です。社長個人の飲食代は、もとから交際費ではないため、この規定の外にあり、役員賞与として、法人税も所得税も課税されます。
【10】貸倒損失の否認
貸倒損失の計上時期は、「全額回収不能が明らかになった場合」には、その事実が生じた年度において損金経理を条件に認められています。証拠書類・原始証憑類・貸倒の時期の判断根拠書類を準備しておく必要があります。
【11】海外取引
不正の多い海外取引も要注意です。「外国の書類で、専門用語が使用されており、調査官も理解できないだろう」などと高をくくっていると、とんでもない目に遭います。海外取引については、原始証憑・取引実態を必ず点検しておきましょう。
【12】賄い
飲食業等々で問題になりやすいのは、「賄い」です。会社が社員に食事補助する場合、社員が半分以上負担し、かつ会社が月間3,500円以下となっており、それ以上は給与課税で源泉税を負担してもらわなければなりません。面倒ですが、1食あたりの直接材料費平均×食事回数を計算し、確認しておく必要があります。 例)20日20食として、一食原価175円以内であれば非課税です。ある程度、論理性をもった計算のしくみと資料を作っていれば、大きな問題にはなりませんが、何もしていなかった場合、否認されます。むしろ食事手当1万円と給与課税している会社もあります。
消費税の要注意事項
消費税はある程度の売上規模があれば、必ず数百万円単位で納税が発生します。さらに、年間売上5,000万円以下の簡易課税事業者は別として、原則課税はどうしてもミスが発生しがちです。そのため、調査の内容も細かくなってきます。
消費税の処理については、解釈の相違などで争う余地が少なく、処理が正しいか否か、課税か課税対象外か、結果がはっきりしています。金額が数千円程度でたまたま間違えたというような場合には指導扱いとなることもありますが、2万〜3万円レベルの金額になると修正申告を要求されます。
税務調査では、経費にかかる消費税の処理について課税対象外のものを仕入税額控除していないか、というように基本的なところを細かく見られます。 具体的には、交際費や福利厚生費の中の香典・見舞金・祝い金、商品券やビール券などが課税仕入になっていないか、手数料勘定のカード手数料、福利厚生費で処理している退職掛金・共済掛金などが挙げられます。
その他、海外取引がある場合には、海外出張旅費や現地経費の処理が課税仕入になっていないか、輸入の場合の運送業者に対する支払いの処理(課税と課税対象外が混じっているケースがほとんど)がきちんとされているか、なども細かくチェックされます。
消費税は一件当りの金額は少額ですが、大量に反復継続するものについて誤りがあると、金額がかさんでくるので、基本をしっかり押さえておく必要があります。
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